報道発表
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」を推進する研究責任者の決定について
平成30年10月24日
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
プレス発表資料
国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長:林 春男)が管理法人を務める、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」を推進する研究責任者を決定しました。
本課題では、大規模地震・火山災害や気候変動により激甚化する風水害に対し、市町村の対応力の強化、国民一人ひとりの命を守る避難、広域経済活動の早期復旧を実現するために、衛星・AI・ビッグデータ等を活用した国家のレジリエンスの強化に資する新技術の研究開発を行い、実用化します。
今般、7つの研究開発項目を設定し、研究責任者の公募を行ったところ、15件の応募があり、公募審査委員会において審査を実施しました。
その結果、プログラムディレクター(堀 宗朗 東京大学地震研究所教授)及び内閣府の了承を経て、研究責任者を決定しました。
- 1.内容
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以下の記述を参照。
- 2.本件配布先
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文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会
1.研究責任者決定の経緯
国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長:林 春男、以下「防災科研」という)が管理法人を務める、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題の一つ「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」(以下「国家レジリエンス」または「本課題」という)について、7つの研究開発項目の研究責任者と研究開発課題を決定しました。
SIPは、科学技術イノベーション総合戦略(平成25年6月7日閣議決定)及び日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)に基づき創設された制度であり、総合科学技術・イノベーシ ョン会議が司令塔機能を発揮し、対象となる課題を特定し、予算を重点配分します。課題ごとにプログラムディレクター(以下、「PD」という)を選定し、府省や旧来の分野の枠を超え、基礎研究から実用化・事業化まで見据えて一気通貫で研究開発を推進し、イノベーションの実現を目指すものです。
SIPでは2018年度より新たに第2期がスタートしますが、総合科学技術・イノベーション会議において国家レジリエンスが対象課題の一つに決定され、総合科学技術・イノベーション会議ガバニングボードにおいて堀 宗朗 東京大学地震研究所教授・巨大地震津波災害予測研究センター長が本課題を担当するPDに決定されました。
本課題では、大規模地震・火山災害や気候変動により激甚化する風水害に対し、市町村の対応力の強化、国民一人ひとりの命を守る避難、広域経済活動の早期復旧を実現するために、衛星・AI・ビッグデータ等を活用した国家のレジリエンスの強化に資する新技術の研究開発を行い、実用化します。具体的には、Ⅰ.避難・緊急活動支援統合システム開発、Ⅱ.被災状況解析・共有システム開発、Ⅲ.広域経済早期復旧支援システム開発、Ⅳ.災害時地下水利用システム開発、Ⅴ.線状降水帯観測・予測システム開発、Ⅵ.スーパー台風被害予測システム開発、 Ⅶ.市町村災害対応統合システム開発の7つの研究開発項目を設定し、各項目について研究責任者が中心となって研究開発を行い、社会実装します。
2018年8月1日より、この7つの研究開発項目について、包括的に研究開発を推進する研究責任者と研究開発課題の公募を(一部の研究開発項目(上述Ⅰ・Ⅱ)については、要素技術の開発研究を推進する研究者と研究開発課題の公募を)行ったところ、計15件の応募がありました。募集締め切り後、公募審査委員会において書類審査と面接審査を実施し、その結果、堀 宗朗PD及び内閣府の了承を経て、研究責任者と研究開発課題を決定しました。
【参考】
- 内閣府SIPに関するホームページ
- 防災科研(管理法人)公募情報に関するホームページ
2.研究責任者と研究開発課題
Ⅰ.避難・緊急活動支援統合システム開発
- 研究責任者
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臼田 裕一郎
(国立研究開発法人防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 ) - 研究開発課題
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避難・緊急活動支援統合システムの研究開発
- 概要
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自然災害を自然現象と社会動態の融合として捉え、災害状況とその予測を可視化する災害動態処理技術を開発する。また、これを中核に、通信途絶領域解消、道路・海上交通解析、保健医療活動支援、物資供給支援の各技術を実装したシステムを開発する。さらに、これらを含めた各組織の個別システムを疎結合で連接し、国民一人ひとりの避難と政府の緊急活動の双方を支援する統合システムを実現する。
Ⅱ.被災状況解析・共有システム開発
- 研究責任者
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酒井 直樹
(国立研究開発法人防災科学技術研究所 先端的研究施設利活用センター 戦略推進室 室長) - 研究開発課題
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衛星データ等即時共有システムと被災状況解析・予測技術の開発
- 概要
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自然災害の発生エリアを観測・予測データから推定し、その情報から衛星等により観測を行い、広域被災状況把握及びシミュレーション結果と共に災害対応機関へ迅速に提供する技術を開発する。被災状況を把握する技術、洪水氾濫・火山降灰・火災延焼シミュレーションにより広域被災予測を行う技術を開発する。これらの技術により、災害発生直後から広域な被災状況把握及び予測を可能とする統合システムを実現する。
Ⅲ.広域経済早期復旧支援システム開発
- 研究責任者
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西川 智
(名古屋大学 減災連携研究センター 教授) - 研究開発課題
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産官学協働による広域経済の減災・早期復旧戦略の立案手法開発
- 概要
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南海トラフ地震等の広域巨大災害に対し、産業の早期復旧により数兆円規模の被害軽減を目指す為、インフラやライフラインの実態、地域企業の連関状況、復旧に必要な資機材や人材等様々な資源の制約を踏まえた被災シナリオを描き、早期復旧を妨げるボトルネックを識別し、事前解消策を検討するとともに、復旧に当たって個々の当事者が資源争奪や囲い込みに走らないための葛藤調整等社会を動かす技術を開発、地域BCPの策定につなげる。
Ⅳ.災害時地下水利用システム開発
- 研究責任者
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沖 大幹
(東京大学 国際高等研究所・サステイナビリティ学連携研究機構 教授) - 研究開発課題
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災害時や危機的渇水時における非常時地下水利用システムの開発
- 概要
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地震や洪水、危機的な渇水等により安全で安定な水供給がしばしば脅かされ、二次的な健康被害をもたらしたり、復旧・復興の妨げとなったりしていることから、最近の事例に基づき、起こり得るシナリオを様々に想定した上で、環境に大きな影響を及ぼすことなく非常時に利用可能な地下水量を三次元水循環解析モデルによって定量的に明らかにし、地域の実情に即した非常時地下水利用システムの構築に資する研究開発を制度面も含めて推進する。
Ⅴ.線状降水帯観測・予測システム開発
- 研究責任者
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清水 慎吾
(国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門 主任研究員) - 研究開発課題
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線状降水帯の早期発生及び発達予測情報の高度化と利活用に関する研究
- 概要
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線状降水帯による大規模水害等の深刻な被害が多発していることから、こうした被害低減のために、線状降水帯の早期発生予測の精度向上、線状降水帯の雨量現況把握と数時間先までの発達予測技術の開発及び雨量と災害を結びつけるデータベース構築によるリアルタイム被害推定技術の開発を実施し、これらの出力を自治体向けに配信するリアルタイム情報提供システムを開発する。
Ⅵ.スーパー台風被害予測システム開発
- 研究責任者
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立川 康人
(京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻 教授) - 研究開発課題
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スーパー台風被害予測システムの開発
- 概要
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気候変動により発生が懸念されるスーパー台風等を対象とした、自助・共助・公助による自立的な避難行動や最善の広域応急対応の実現に向けて、様々な観測データを利用し合理的なデータ処理を施すことで、スーパー台風の進路予測を用いた河川水位や高潮・高波、さらに浸水エリアを予測するとともに、ダムや水門の連携・一元化による運用・操作機能も装備したスーパー台風被害予測システムを三大湾等への社会実装も考慮し開発する。
Ⅶ.市町村災害対応統合システム開発
- 研究責任者
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塚原 健一
(九州大学大学院工学研究院附属アジア防災研究センター 教授) - 研究開発課題
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避難判断・訓練支援等市町村災害対応統合システムの開発
- 概要
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災害時の避難判断や訓練実施等の課題を抜本解決し、避難判断に必要な情報の欠落ゼロ、避難勧告等の発令の出し遅れゼロ、地区単位等小エリア発令により住民の逃げ遅れゼロを可能とする統合システムを開発し、1700市町村へ順次実装する。最先端のAI、IoT技術と既存技術の融合を図り、市町村の適切な判断を支援する。併せて、意思決定・対応能力の向上のため、訓練シナリオ自動生成による訓練体制を構築し、犠牲者ゼロの実現を目指す。
※:研究開発課題名は応募時点のもので、今後変更する場合があります。
3.本課題の公募審査委員会委員
(五十音順)
天野 晴子 日本女子大学家政学部家政経済学科 教授
井村 和久 東芝インフラシステムズ株式会社技術企画部 シニアエンジニア
岩崎 晃 東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻 教授
大林 厚臣 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
国崎 信江 危機管理教育研究所 代表
鈴木 修 気象研究所 気象衛星・観測システム研究部長
須見 徹太郎 元東京大学大学院情報学環総合防災情報教育センター 特任教授
関 克己 公益財団法人河川財団 理事長
辻村 真貴 筑波大学生命環境系 大学院生命環境科学研究科持続環境学専攻 教授
中川 和之 株式会社時事通信社 解説委員
中埜 良昭 東京大学生産技術研究所基礎系部門 教授
服部 敦 国土技術政策総合研究所河川研究部 水防災システム研究官
◎堀 宗朗 東京大学地震研究所附属巨大地震津波災害予測研究センター 教授
山本 哲也 気象研究所 火山研究部長
渡辺 研司 名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻 教授
◎:委員長
4.本課題における公募審査基準
- SIPの意義の重要性や趣旨に合致していること。
(下記「第2期SIPが満たすべき要件」参照) - 提案された研究開発成果がSIPの当該課題の目的や目標に沿ったものであること。
- 提案された研究開発手法及び研究開発の進め方が妥当であること。
- 研究開発の実施体制、予算、実施規模が妥当であること。
(※特に、府省連携や産学官連携など組織間、研究開発課題間、研究開発項目間・内連携の有効性を重視) - 提案されたアウトプットとしての技術が優位であること。
- 提案された出口戦略が優れていること。
- 提案された社会実装の内容とプロセスが明確かつ妥当であること。
- 産業界(民間企業)からの投資(人的、物的投資を含む)の見込みが大きいこと。
- 包括提案の場合、各要素技術が他の要素技術とどのように連携するか、開発されるシステムにおいてどのように位置づけられるかが明確であること。
- 要素技術提案の場合、包括提案側の研究チームと相乗効果が期待できること。
- 第2期SIPが満たすべき要件
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- Society 5. 0の実現を目指すもの。
- 生産性革命が必要な分野に重点を置いていること。
- 単なる研究開発だけではなく社会変革をもたらすものであること。
- 社会的課題の解決や日本経済・産業競争力にとって重要な分野。
- 事業化、実用化、社会実装に向けた出口戦略が明確。
(5年度の事業化等の内容が明確) - 知財戦略、国際標準化、規制改革等の制度面の出口戦略を有していること。
- 府省連携が不可欠な分野横断的な取り組みであること。
- 基礎研究から事業化・実用化までを見据えた一気通貫の研究開発。
- 「協調領域」を設定し「競争領域」と峻別して推進(オープン・クローズ戦略を有していること。)
- 産学官連携体制の構築、研究開発の成果を参加企業が実用化・事業化につなげる仕組みやマッチングファンドの要素をビルドイン。
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の概要
- 1.研究開発の意義・目標
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大規模地震・火山災害や気候変動により激甚化する風水害に対し、市町村の対応力の強化、国民一人ひとりの命を守る避難、広域経済活動の早期復旧を実現するために、南海トラフ地震等の防災に関する政府計画を実施する必要があります。
そこで、本課題では、防災に関する政府計画(例えば、南海トラフ地震で想定される死者33万2千人の被害を、8割削減)の実施に必要となる主要な研究開発項目の全てについて、実用に供し得るレベルでの研究開発を完了し、社会実装の目処を付けます。具体的には、本課題で対象とする2つの統合システムについて、最先端技術を取り入れた研究開発を行い、国及び異なるタイプの複数の自治体で実用化します。
これにより、政府目標達成に資するとともに、災害時のSociety 5.0の実現を目指し、SDGsに貢献します。 - 2.研究開発の内容
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国家レジリエンス(防災・減災)を強化するため、以下の2つの統合システムの研究開発を行います。
避難・緊急活動支援統合システム
- ビッグデータを活用した災害時の社会動態把握や、衛星等を活用した被害状況の観測・分析・解析を、政府の防災活動に資するよう発災後2時間以内に迅速に行える技術
- スーパー台風、線状降水帯について、広域応急対応や避難行動等に活用できるよう、必要なリードタイムや確からしさを確保して予測する技術
市町村災害対応統合システム
- 短時間でビッグデータを解析し、避難対象エリアの指定や避難勧告・指示を行うタイミングの判断に必要な情報を自動抽出する情報処理技術
- 3.研究開発項目及び研究開発費の規模
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2018年度の研究開発費(間接経費を含む)は以下を予定しています。研究開発項目ごとの研究開発費(間接経費を含む)は、提案内容を参考にPDが決定します。
(単位:百万円)- Ⅰ. 避難・緊急活動支援統合システム開発
- 600
- Ⅱ. 被災状況解析・共有システム開発
- 550
- Ⅲ. 広域経済早期復旧支援システム開発
- 150
- Ⅳ. 災害時地下水利用システム開発
- 200
- Ⅴ. 線状降水帯観測・予測システム開発
- 300
- Ⅵ. スーパー台風被害予測システム開発
- 300
- Ⅶ. 市町村災害対応統合システム開発
- 200