大雪対応サプライチェーンマネジメントシステム開発プロジェクト
企業BCP や交通・物流分野の防災課題解決と性能評価・標準化
小売業や物流業界にとって、交通障害をもたらす大雪は大きな損害が生じる自然災害である。特に、首都圏では、積雪深の観測所が少なく、正確な積雪深の分布を把握することが困難だ。
そこで、コンビニエンスストアに積雪センサーを設置し、観測網の充実をはかり、積雪分布を推定することで、コンビニエンスストアの災害時の機能維持を図る取り組みを試験的に実施した。
災害対策基本法におけるコンビニエンスストアの位置付け
2017年7月1日、スーパー、総合小売グループ、コンビニエンスストアの7法人が新たに指定公共機関に指定されました。これらの法人は、災害発生時に、地方公共団体や政府災害対策本部を通じた要請により、物資支援協定等に基づき、全国の店舗網等のネットワークを活かして、支援物資の各種品目の調達、被災地への迅速な供給等を担うことで、災害応急対策に貢献することが見込まれています。
IoT センサー開発と実証実験
防災科研は、2015年度から指定公共機関の一つである株式会社セブン-イレブン・ジャパン(以下セブン-イレブン)と大雪時の状況把握や対応に関わる連携をスタートさせ、2016年度から「大雪対応サプライチェーンマネジメントシステムの開発」(図1参照)に取り組んでいます。
2015年度に実施した物流企業に対するヒアリング調査では、大雪による経済損失は大規模地震に次いで大きく、解決すべき課題の一つであることが分かりました。例えば、セブン-イレブンのようなコンビニエンスストアのサプライチェーンにとって、大雪は、交通障害と物流の停滞をもたらし、大きな損害が生じる自然災害です。特に、普段雪が降らない首都圏において、積雪の有無は交通、物流への影響が大きくなるポイントのひとつですが、首都圏は積雪深の観測所が少ないため、正確に積雪深の分布を把握することが困難でした。
そこで、セブン-イレブンの店舗に容易に設置できる小型のIoT積雪センサー(積雪深と積雪重量)を開発し、店舗を観測所とすることで広域のポイントで積雪深を観測して、より正確な積雪分布を把握するためのプロジェクトを開始しました(図2参照)。従来の実証実験では、気象庁メソ気象モデルの気象要素のみを入力値とし、防災科研の積雪モデルを用いて1時間ステップで39時間先までの5㎞メッシュの積雪分布予測を生成していました。この積雪モデルに対して、店舗のIoT積雪センサーの現況値(初期値)による積雪データを補完することにより、さらに正確な積雪分布予測情報を生成できるようになりました。より正確な積雪分布予測情報を活用することで、大雪時の物流の確保や、雪氷災害軽減情報発信につなげることができます。
新たに生成した積雪深分布情報
2017年度と2018年度は、関東圏内の10店舗に積雪センサーを設置し、防災科研独自観測点を合わせ15 ~16地点で観測を実施しました。例えば、2019年2月9日の降雪・積雪では、関東圏内で例年観測される降雪・積雪分布とは異なり、関東東部の千葉方面において強い降雪傾向がみられましたが、その傾向を、千葉県の店舗に設置した複数の積雪センサーが観測しており、店舗観測値による積雪予測分布の価値を示すものとなりました。
また、生成した積雪分布は、セブン-イレブンの災害対応システムへ試験的に提供しています。今後は、さらなるニーズに応えるべく、生成した積雪分布情報を用いて経済損失をもたらす道路渋滞の予測を目指し、さらに研究開発を進めています。
大型実験施設の性能評価・標準化につながる取り組み
2017年度と2018年度は、関東圏内の10店舗に積雪センサーを設置し、防災科研独自観測点を合わせ15 ~16地点で観測を実施しました。例えば、2019年2月9日の降雪・積雪では、関東圏内で例年観測される降雪・積雪分布とは異なり、関東東部の千葉方面において強い降雪傾向がみられましたが、その傾向を、千葉県の店舗に設置した複数の積雪センサーが観測しており、店舗観測値による積雪予測分布の価値を示すものとなりました。
また、生成した積雪分布は、セブン-イレブンの災害対応システムへ試験的に提供しています。今後は、さらなるニーズに応えるべく、生成した積雪分布情報を用いて経済損失をもたらす道路渋滞の予測を目指し、さらに研究開発を進めています。
本稿で紹介したIoT積雪センサーの開発では、夏でも降雪や積雪など冬の環境を再現できる防災科研の雪氷防災実験棟(山形県新庄市)で性能試験を実施しました。防災科研が有する大型降雨実験施設(つくば本所)や雪氷防災実験棟は、IoT機器やセンサー開発等の性能評価にも利用できます。
大型降雨実験施設では、実際の降雨の粒径も再現した15 ~ 300mm/hの降雨強度の雨で実験可能なため、IoTセンサーの通信試験や土砂移動検知センサーの実験も実施しています。
雪氷防災実験棟は、IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクトに関わるIoT降雪センサー、積雪センサー、寒冷環境下での動作を求められる気象センサーの開発にも活用しています。
防災科研では現在、このような大型実験施設を活用した観測機器の適合性評価や試験条件について、標準化に向けた検討を行っています。また、実験施設を利用した着雪試験の標準化と着雪試験の手順書を作成して公開することを目的に、「雪氷防災実験施設を活用した着雪試験標準化に関する検討会」を開催しました。検討会では、着雪試験手順に関わる標準条件の実務的な有用性と工学的な観点からの妥当性を確保するために、学識経験者および着雪試験に関連する民間企業に参画いただき、様々な意見を取り入れています。将来的には、JIS化や国際標準化も視野に入れて検討しているところです。
- (左)気象災害軽減イノベーションセンター
センター長補佐・研究推進室長
中村 一樹(なかむら・かずき) - 2013年防災科学技術研究所入所。雪氷防災研究センターで、雪氷災害の軽減につながる研究を実施。2016年より現職。同年の気象災害軽減イノベーションセンターの設置に携わり、気象災害軽減コンソーシアムなど、新しい仕組みをスタートさせる。雪氷防災研究部門主任研究員。
- (右)気象災害軽減イノベーションセンター 外来研究員
阿部 直樹(あべ・なおき) - 株式会社パスコ所属。携帯型斜め写真撮影システム(PALS)ならびに、災害時の航空機による情報収集とその集約手法の開発に従事。2016年より現センターへ出向。IoT積雪センサーの開発に携わり、大雪対応サプライチェーンマネジメントシステム開発プロジェクトを担当する。