実大三次元震動破壊実験施設等研究基盤を活用した都市のレジリエンス高度化研究開発
建物から都市空間へ、私たちの営みを守るE-ディフェンスの可能性
地震減災実験研究部門では、E-ディフェンスを活用した研究開発に取り組んでいます。E-ディフェンスは、実物大規模の建物を壊れるまで揺することができる世界最大級の実験施設であり、数多くの建物が甚大な被害を受けた1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとして整備が進められ、2005年に運用を開始しました。
運用当初は、建物などの破壊現象の解明や対策技術の有効性を検証する実験研究と、E-ディフェンス実験を再現し建物の損傷を詳細に解析する数値シミュレーション技術の開発に取り組みました。
次に、建物の機能維持に関する研究開発にも取り組みました。建物には住居やオフィス、病院、学校など様々な機能があります。建物が大きな地震に持ちこたえても、地震後に機能を維持することができるのか、余裕がどの程度あるのかを確かめる実験を行いました。
これらの実績を発展させ、私たちの営みを地震後も確実に継続できるレジリエントな社会の実現のため、今後は「社会経済活動能力の把握・向上」を新たなビジョンとして、「都市空間」を対象とした被害状況推定やリスク予測などの評価に資する研究開発に取り組みます。
世界最大の三次元震動台 実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)
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兵庫県三木市に所在する、世界最大にして最高性能の振動台(大きさ20m×15m、最大搭載荷重1,200t)により、実物大の構造物の加振実験ができる施設
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E-ディフェンスを活用したこれまでの研究開発
これまで、個別の建物を対象として、震災の再現、建物の耐震性能の評価、耐震補強工法の検証、リアルタイムヘルスモニタリング技術の検証、建物の機能維持性に関する研究を、幅広く実施してきました。また、E-ディフェンスは、外部機関による利活用も可能な共用実験施設です。民間業者により、E-ディフェンスを利用した商品開発・検証なども行われています。
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- 旧耐震基準で建てられた木造住宅(左)と、現行基準で補強した木造住宅(右)でどれくらい地震被害に差があるのかを調べた実験の様子
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- ため池の遮水を目的に遮水シートを堤体内に敷設する事例が増えていますが、それをどのように敷設すれば地震による決壊の被害を防げるかを、実験を通して検証
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- 家具・什器の転倒による被害を低減するため、居室・オフィスの被害状況を再現して、その対策を促進
E-ディフェンスでの実験は、防災科研が単独で行ったもの、産官学民との共同研究なども含め、これまで約123件行われています(2023年3月現在)。そのうち、一部の非公開実験を除き、実験の詳細(実験目的、建物の設計図面、センサーの位置)および実験生データは、E-ディフェンス実験データアーカイブ(ASEBI) にて公開しています。
また、実験時の映像データを用いた、地震の疑似体験ができるVR技術の開発なども行っています。既存の地震映像に、当プロジェクトで研究を進めているシミュレーション技術を掛け合わせることによって、地震被害への理解をさらに深める手立てになります。
都市空間内の変化をとらえ、被害とリスクを読み解く
対象を都市空間に広げる場合、建物自体に加えてその地下構造や接続インフラの被害、隣接建物の影響など、地盤を介した「建物群」への影響の把握も重要です。E-ディフェンスにより、南海トラフ地震など大規模な地震時における地盤の影響の実証的な評価を試みます。
また、都市空間内の状況変化を効果的にとらえるため、映像や音声などの「空間」的なデータから状況を読み解くセンシング技術の研究開発に取り組みます。E-ディフェンス実験などで得られる実被害データを基にセンシング技術の研究開発を進め、建物の室内から周辺、さらには街区レベルに至る幅広い空間的な情報の被害状況・リスク評価への活用を目指します。
さらに、広域的かつ合理的な評価情報を提供するため、サイバー空間内に多種多様な建物・地盤情報やセンシングデータに基づく都市空間モデルを構築し、E-ディフェンスで培った数値シミュレーション技術をコアとする「都市空間レベル」の数値解析基盤の開発にも取り組みます。
E-ディフェンスの活用をグローバルに推進する
防災科研では、私たちの営みを支える様々な情報プロダクツの創出を推進しています。私たちの取組も、地震災害による被害状況・リスクの評価に資する情報をつくり出す技術の開発を目指しています。
地震災害に対するレジリエンスの強化は地震国において共通な課題であり、E-ディフェンス実験の結果やそれに基づく知見は我が国に限らずグローバルに共有されるべきであると考えています。今後も新たなビジョンのもと、国内外の研究者や技術者とコミュニケーションを重ねてグローバルなアイデアを創出し、E-ディフェンスの活用を通じて連携や共創を大切にしながら地震減災のための研究開発を推進します。
TOPICS:10層鉄骨造オフィス試験体による建物の動的特性評価実験
2023年2月に実施した10階建て鉄骨造の実験です。建物はオフィスを模擬しており、外周部にLEDを具備した外装材を取り付けています。
実験の目的- 社会にある実際の建物の地震対策に役立てるために、国内で頻発する中小地震を利用して建物の揺れの特性(動的特性)を評価する手法を開発
- 夜間でも、地震後の速やかな建物の状況判断と継続利用の可否を判断するための、建物外装材に搭載するセンシングと光アラートシステムを開発
- 試験体概要
- 寸法:幅12m,奥行8m,高さ27m
階数:10階
構造:鉄骨造
長辺:制振ブレース付き骨組
短辺:純ラーメン構造
内部:合計23機関による空間利用
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- 平常時
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- 地震時
平常時は外装材の前面に設置したLEDでイルミネーションとして点灯し、地震時・災害時には両端のLEDにより地震で観測された建物の変形と建物の継続利用の可否をLEDの色によって明示します。具体的には、緑色:安全、 黄色:注意、 赤色:危険となります。