計測震度の即時概算方法の開発と利用
産業界で利用された研究成果の事例
はじめに
防災科研では、災害を未然に防ぐための研究開発を日々行っています。これらの研究開発の目的の一つは、社会に実装され実際の現場で災害軽減にまで結びつくことにあります。ここでは、民間企業による製品化に結びつき、災害現場等での活用にまで至った研究成果の事例をご紹介します。
現在の震度観測
日本では、地震が起きるとテレビやインターネットで、各地の震度の情報が速報されます。かつては、震度は体感および周囲の状況から推定していましたが、1996 年(平成8 年)4 月以降は、震度計により自動的に観測する体制が整っています。皆さんがテレビなどで目にする震度情報は、気象庁、地方公共団体および防災科研が全国各地に設置した震度計で観測したデータを気象庁がとりまとめて発表したものです。なお、防災科研では強震観測網K-NET に設置された強震計が震度計としての機能をあわせ持っています。
震度計は、地面の揺れを観測し所定の方法に基づき計測震度と震度階級を算出する専用の機器です。計測震度は、小数点第1 位までの詳しい震度で、10 階級に区分された震度階級は、この計測震度から決定されます。たとえば、計測震度5.2 であれば震度階級は5 強となります。
震度は素早く算出できない?
震度は地震による揺れの強さを知るための大変重要な値のため、震度計によって観測結果に違いが出ないように、計測震度の算出方法は全ての震度計で統一されています(平成8 年気象庁告示第四号)。この算出方法では、地震データを1 分間蓄積してから一度に計測震度を算出する方法をとっています。このため、地震の揺れ始めから40~50 秒後にならないと計測震度を算出することができません(図1)。
震度を素早く知る方法の開発
地震データを蓄積してから計測震度を算出する方法は、効率的に処理ができる利点がありますが、機器の非常停止など揺れを検知し即座に行動を起こす必要のある用途には向きません。そのため、防災科研では、計測震度の近似値を高い精度で素早く求める方法(即時概算方法)を開発しました。専門的になるため詳細は省略しますが、「時間領域近似フィルタ方式」(特許第4229337 号、地震2, 60, 243-252, 2008)がポイントとなる技術です。図2 には、東日本大震災(2011 年)時にK-NET つくば(防災科研本所)で記録された地震記録を即時概算方法で処理した例を示しました。この地震で防災科研本所では震度6 弱を記録しましたが、揺れ始めから80 秒後には、すでに震度5 弱に、90 秒後には震度5 強に、達していることがわかります。このように、即時概算方法では素早く震度を知ることができるだけでなく、震度が次第に大きくなっていく様子を把握することも可能です。即時概算方法では、震度を知るための待ち時間は0.01 秒にまで短縮され、ほぼ実時間(リアルタイム)で震度を把握することが可能になりました。
なお、この即時概算方法で1 秒ごとに算出した値(リアルタイム震度値)は、防災科研が提供する「強震モニタ」の表示にも利用されています。
産業界との連携事例
震度の即時概算方法は、防災科研で運用している各種装置での利用にとどまらず、所外の機器にも採用されています。その一例が、図3 の制御用地震計S401-PSC(明星電気株式会社製)です。この装置は2016 年に発生した熊本地震の震災復旧の現場で、余震の揺れを検知し、警告灯等で作業員に迅速な避難を促すために利用されました。また、伊勢崎市文化会館では、地震発生時に自動ドアを開放し、利用者の避難経路を確保する仕組みにも利用されています。
なお、即時概算方法の組み込みに際しては、算出方法の解説文書のほか、算出プログラムのソースコード等を提供し、製品化に役立てていただくことにより、連携して技術移転の迅速化を図りました。
おわりに
防災科研では災害軽減を目指した多くの研究開発を行っていますが、研究開発の成果を災害軽減の現場で役立てるためには、研究成果を組み込んだ機器の製品化が不可欠です。これからも、産業界と連携して、災害に強い社会の実現に向けた研究開発を推進していきます。
防災科研では、震度の即時概算方法の他、長周期地震動指標の効率的演算方法、複数の地震計を利用した地震観測の信頼性検証方法等、地震防災システムに関連する多くの研究開発を行っています。これらの技術にご興味のある方は、当研究所社会連携課(chizai_riyou[AT]bosai.go.jp)までお問い合わせください。※メールアドレスの[AT]は@に変換してください。
- 地震津波火山ネットワークセンター 強震観測管理室長
功刀 卓