IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクト
「地産地防」 —地域の産業で地域の防災を実現する
IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクトでは、気象災害軽減イノベーションセンターのサテライトとして新潟県長岡市、山梨県、熊本県の3地区をモデル地区に設定し、いろいろなセンサーが通信で結ばれ、大量のデータ取得を可能とするIoTを活用して「地産地防」に結び付ける取り組みを進めてきた。本プロジェクトの活動をリードしてきた新潟県長岡市での取り組みは別項に譲り、ここでは、山梨県と熊本県での取り組みを紹介する。「地産地防」とは、地域の産業で地域の防災を進めるという意味の造語で、本プロジェクトの基本理念となっている。
山梨サテライトでは
2014年(平成26年)2月、発達した南岸低気圧の影響により山梨県は大雪に見舞われました。甲府市では、これまでの観測記録の2倍に及ぶ114cmの積雪が記録されました。そのため、道路や鉄道がいたるところで寸断され、山梨県全体が孤立する事態となりました。この年の大雪災害の経験を踏まえて山梨サテライトを設置し、普段は雪の少ない地域で突発的な大雪が発生した際の被害軽減を目的として、活動を行ってきました。この取り組みでは、「山梨地区道路物流に関わる雪氷災害に関する勉強会」を開催し、大雪時の道路交通、物流、除雪などの課題に関する情報交換会を行っています。本勉強会では、交通工学が専門の山梨大学(現在は早稲田大学)の佐々木邦明教授に座長となっていただき、専門的観点からアドバイスをいただいております。この勉強会では、参加する物流、道路管理情報、通信など様々な関係機関に所属する方々がそれぞれの立場で意見を出し合うことができ、各分野が抱えている課題を共有する場となっています。こうした会合をきっかけとして、山梨県内に設置したIoT積雪センサーからのデータから、降雪・降雨時における交通特性の分析と、気象条件の変化が道路交通に与える影響を予測する研究が始まりました。さらに、異分野・異業種間で相互にデータを出し合う仕組み作りが試行され、本プロジェクトが機関の壁を越えた横串の役割を果たしていると言えます。
熊本サテライトでは
2016年(平成28年)4月の熊本地震により、熊本県内では多数の土砂災害が発生して甚大な被害をもたらしました。気象災害軽減イノベーションセンターでは、地震後直ちに熊本サテライトを設置し、土砂災害防止を目的とした斜面監視IoTセンサーの研究開発を進めてきました。また、熊本県西原村をはじめとする被災地域の自治体に向けて防災情報の提供を行ったり、地元住民に向けて地震後の災害危険性に関する住民説明会を開催したりすることで、被災地域の復旧・復興を支援してきました。
被災地域が復旧・復興を進めていくためには、インフラの復旧や災害対策工事だけでなく、地域経済の活性化も課題となることから、地元企業を主体とする防災関連ビジネスの創出を目指した活動にも取り組みました。2017年より、熊本県西原村、㈱エー・シー・エス、㈱Rimos、㈱ソナス、㈱東亜コンサルタント、熊本高等専門学校に参画していただき、低コストで多用途(斜面変動の監視、河川水位変動の監視など)のIoTセンサー開発を共同で行ってきました。また、雨量概況、気象警報・注意報、ハザードマップなどの各種公開情報と、IoTセンサーにより現地で観測したリアルタイムの情報を一元化するためのWeb-GISシステム開発を進めています(図参照)。
IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクトの発展
本プロジェクトでは、「地産地防」の実現を目指して、新潟県長岡市、山梨県、熊本県の3地区をサテライトとして様々な活動を行ってきました。一連の活動では、「地域の課題は地域で解決する」ということを基本理念としており、気象災害軽減イノベーションセンターは、各地域でそれまで別々に活動していた異分野・異業種の機関、人材を結びつける役割を果たしてきました。
こうした経験や取り組みを活かし、滋賀県竜王町、北海道標津町、新潟県小千谷市の3市町と、防災科研、東京大学、NTTドコモが共同で提案した総務省公募課題事業「IoTの安心・安全かつ適正な利用環境の構築(IoT利用環境の適正な運用及び整備等に資するガイドライン等策定)」が2019年6月に採択され、民間企業とともに活動を開始しています。
このように、新潟県長岡市を皮切りに3つのサテライトで取り組んできた本プロジェクトは、全国各地における活動へと発展しています。今後は、IoTセンシング技術とAI技術の融合を図るなどの技術革新も視野に入れながら、「地産地防」を実現するための産学官連携の研究開発をさらに進めていく予定です。
- (右)気象災害軽減イノベーションセンター 副センター長
上石 勲(かみいし・いさお) - 1959年新潟県上越市出身。1984年富山大学大学院修了。2001年新潟大学大学院(社会人入学)Ph.D. 博士(学術)。専門は雪氷学。2013年より現職。雪氷防災研究センター長。雪氷防災研究センター 部門長。雪氷防災研究センター 総括主任研究員。首都圏レジリエンス研究センター 副センター長。
- (左)気象災害軽減イノベーションセンター 特別研究員
木村 誇(きむら・たかし) - 1981年大阪府寝屋川市出身。2012年北海道大学大学院農学院博士後期課程。単位取得退学。博士(農学)。専門は砂防学。2016年より現職。水・土砂防災研究部門 特別研究員。