災害時情報集約支援チーム(ISUT)の取り組み
- 大阪府北部地震をはじめとする災害対応を踏まえて-
災害時対応では、同時並行的に活動する各組織が状況認識を統一し、的確な活動を行うことが求められる。災害時の情報共有を促進するため、本年度、内閣府や防災科研などを構成員とした災害時情報集約支援チーム(ISUT)の取り組みが試行的に行われた。本年度の取り組みと、来年度の正式運用に向けた動きについて紹介する。
ISUTの設立経緯
防災科研は、各組織が保有する情報共有を促進し、効率的な災害対応を実現させることを目的に、SIP4D(Shared Information Platform for Disaster Management)を活用した災害対応支援として、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨で、現地の災害対策本部に研究員を派遣し、地理空間情報をベースとした災害情報集約活動を実施してきました。具体的には、各組織が持つ災害情報をSIP4Dに収集・集約し、各組織の災害情報システムに他組織のデータを配信する、システムを持たない機関には災害対応機関限定情報共有webサイトにて情報共有を行う、または各機関のニーズに合わせて、集約した情報を重ね合わせた地図を印刷するといった支援を行いました(図1)。また公開できる情報については、防災科研クライシスレスポンスサイト(NIED-CRS)を通して、一般公開するなどの対応も行ってきました。
一方、内閣府では、平成28年熊本地震に係る初動対応検証レポートや、応急対策・生活支援策検討ワーキンググループ等にて、被災市町村の状況や避難者の動向、物資の状況などの把握が困難であったことから、事前に各種の情報について取り扱いや共有・利活用に係るルールを定めるなど、関係機関間における「災害情報ハブ」に関する仕組みづくりを行うことが必要との指摘により、国と地方・民間の「災害情報ハブ」推進チームを2017年に設置しました。チームには、防災科研も構成員となり、これまでのSIP4Dを活用した災害対応支援の知見の共有などを行いました。これらの活動を基に、最前線で災害対応に当たる者の意思決定を支援するため、現地でSIP4Dを活用して、災害情報を収集・整理・地図化するISUT(Information Support Team:災害時情報集約支援チーム)を2018年4月より試行的に立ち上げることとなりました。
ISUT の試行的取り組み
試行では、内閣府防災担当、内閣府科学技術・イノベーション担当、防災科研、SIP4Dの共同研究開発機関である日立製作所の4者が構成メンバーとなりスタートしました。
都道府県や内閣府で開催する各種防災訓練に参加し、ISUT構成員の動き方を確認しながら、本格運用に向けて調整を進めていく予定で検討していました。しかし、予定していた訓練に参加する前に、大阪府北部を震源とする地震が発生し、内閣府情報先遣チームとともに現地に派遣されることとなりました。この災害が、ISUTとしての初めての取り組みとなります。
大阪府北部地震では、発災した6月18日の夕刻には、大阪府庁にISUT構成員が到着し現地活動を開始しています。災害対応機関限定の情報共有webサイト「ISUTサイト」を開設し、大阪府災害対策本部や、活動している自衛隊、DMAT、応援自治体、関係機関等に、SIP4Dに集約された情報共有を行いました。写真1は、ISUTサイトを用いて、自衛隊に情報共有をしている様子です。画面に映っている情報は、都市ガスの供給情報、避難所の位置と避難者数の規模、自衛隊の入浴支援場所の位置を重ね合わせて示したものです。これらの重ね合わせた情報を、現地で対応していた自衛隊は、どの地域で優先的に入浴支援を実施すべきかの検討に活用しました。ガス会社、大阪府、自衛隊など、複数組織の情報が重畳されることによって、被災状況を認識し、対応を検討できた一例です。ISUTは大阪府庁にて5日間対応を行った後、各機関からのメールや電話によるオーダーがあれば、随時対応する遠隔支援に移行しました。
その他、平成30年7月豪雨や平成30年北海道胆振東部地震でも、現地災害対応を実施するとともに、山梨県、三重県、東京都、内閣府が主催する各種訓練にも参加し、ISUTの本格運用に向けて調整を進めています。
ISUT の今後の展開
現在、2019年4月からのISUT正式運用に向けて、各種マニュアル等の整備、関係各所への説明等準備を進めているところです。本年1月の中央防災会議防災対策実行会議では、座長である菅官房長官より、ISUTの正式運用に向け、自治体との調整を進めるよう指示もありました。
内閣府では防災科研とともに、本年2月より、各都道府県、政令指定都市の防災部局担当職員を対象としたISUTの活用に係るブロック別説明会を全国各地で開催しています。説明会では、今年度の災害対応を基にISUT活動を説明した上で、ISUTへの理解と、SIP4Dなどを用いた災害情報の共有に向けた平時からの検討について依頼をしています。説明会における自治体からの反響は大きく、各回とも、災害情報共有における平時からの準備に関する質問や、ISUT・SIP4Dへのご要望などを数多くいただいています。これらのご意見も踏まえつつ、都道府県防災情報システムとSIP4Dの接続による迅速な災害情報共有のモデルケース形成の模索や、関係機関との連携体制の強化などを通じて、災害時対応における情報共有の促進に引き続き努めてまいります。
- 社会防災システム研究部門 特別研究員
内閣府政策統括官(防災担当)付
参事官(防災計画担当)付 行政実務研修員(出向)
佐藤 良太(さとう・りょうた) - 2017 年筑波大学大学院 システム情報工学研究科 博士後期課程 リスク工学専攻満期退学。2015 年8 月防災科学技術研究所入所。災害情報の集約と利活用に関する研究の一環として、SIP4D に関連する研究開発に従事。2018 年10 月より内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(防災計画担当)室に出向し、ISUT、災害情報ハブ、首都直下地震計画等に関する業務を担当。