災害状況の見える化
防災科研クライシスレスポンスサイト(NIED-CRS)による情報発信
自然災害発生時には、様々な機関が発信する情報を一元的に集約、可視化して状況の把握・共有を行うことが重要である。防災科研総合防災情報センターでは、自然災害発生時に災害情報の集約・可視化を行うウェブサイトとして防災科研クライシスレスポンスサイト(NIED-CRS)を公開している。
災害情報の統合的な発信
防災科研総合防災情報センターは、防災科研の研究成果のみならず、国内外の防災科学技術に関する研究や、様々な自然災害に関する資料を収集・整理して、データベース化を行い、ウェブサイト等を通じて研究者、専門家、一般市民等へ効果的に情報を提供する役割を担っています。
総合防災情報センターでは災害発生時の情報発信の取り組みとして、防災科研クライシスレスポンスサイト(略称NIED-CRS)を公開しています。NIED-CRSは地震、火山活動、風水害などの自然災害の警戒期・発生期・対応期における状況把握のための情報を集約し発信しています。集約・発信する情報としては、防災科研が解析した災害に関する情報や、各機関、関係各所で発信される災害情報が挙げられます。
今後公開されるNIED-CRSや、これまで公開してきたNIED-CRSは、ポータルサイト(https://crs.bosai.go.jp/)にてご覧いただけます。
平成30 年上半期のNIED-CRSの公開
平成30年度上半期には、地震、風水害、火山活動の計7つのNIEDCRSを公開しました(表1)。
今年度のNIED-CRSの特徴として、平成29年10月よりNIED-CRSで発信するGISの仕組みを変更したことにより、地図を目的別に作成・公開し、閲覧者が特別な操作をしなくても目的別の地図を閲覧することができるようになっています。また、台風災害においては、これまで台風号数毎に公開していましたが、今年度からは「2018年の台風に関するクライシスレスポンスサイト」として集約し、台風の情報を過去も含めて一元的に発信するような試みを行っています。
さて、今年度公開したNIED-CRSのうち、ここでは「平成30年7月豪雨」と「北海道胆振東部地震」について、どのような情報が発信されているか紹介したいと思います。
平成30年7月豪雨では、7月5日からNIED-CRSを公開し、警戒段階においては浸水・土砂災害の警戒のため、防災科研によるリアルタイムの雨量解析(局地的な浸水に関連する解析情報や土砂災害の危険性に関連する解析情報)等の情報を公開しました。7月7日以降は、災害状況把握のために、国土地理院の空中写真や、国土交通省(DiMAPS)の道路などの被害状況等、各機関が発信する情報を集約し掲載しています。このようにNIED-CRSでは、災害の経過や災害対応の内容に合わせて公開すべき情報の拡充を図っています。
そのほかには、全国社会福祉協議会と連携しボランティア活動の募集状況の可視化、陸上自衛隊と連携し給水所や入浴支援の場所を示した情報等も掲載しています。また、防災科研や大学、学協会による災害事象の分析結果も掲載しています。例えば、建物の被害率、空中写真の判読による土砂災害が発生した場所、避難所へ避難した人の避難状況推移などの分析結果を地図上に可視化し掲載しています。また、地図情報だけでなく、各機関から発信されているWebサイトの情報をとりまとめ、リンク集として掲載しています。
平成30年9月6日午前3時7分ごろに北海道胆振地方中東部で発生した北海道胆振東部地震では、同日午前4時50分にNIED-CRSを公開しました。災害発生直後は災害の全容把握が必要であり、防災科研が解析した面的推定震度分布や250mメッシュ毎の全壊建物被害棟数推定を公開しました。また、本災害では地震による斜面崩壊が発生したため、土砂災害危険箇所、警戒区域の情報を合わせて掲載しました。災害の経過や各機関の情報公開に合わせ、国土地理院の空中写真や避難状況、給水所、入浴支援箇所、災害情報のリンク集などの情報を掲載しました。
なお、前述の2つの災害では防災科研の研究員・職員が現地の県庁・道庁(平成30年7月豪雨:岡山県庁、広島県庁、愛媛県庁、北海道胆振東部地震:北海道庁)にて情報支援を行い、情報支援活動の中で発信すべき公開可能な情報を可視化しNIED-CRSに掲載しています(※広島県庁、北海道庁の活動は内閣府の災害時情報集約支援チーム(ISUT)の一員として活動)。
利用者の立場に立った情報発信
これまでのNIED-CRSによる情報発信を経て、総合防災情報センターでは、災害情報を収集・集約し発信する方法や体制が確立されつつあります。一方で、今年度の情報発信においては、研究所内の多くの職員が関わり、処理・発信した情報や方法も膨大な量になりました。今年度の対応も踏まえ、情報発信の方法や手順について、標準作業手順(SOP)の確立を進めているところです。
今後もNIED-CRSを通じて災害状況の把握に資するよう、発信する情報の拡大や、状況把握に役立つ情報発信に取り組んでまいります。また、一方向の情報発信ではなく、NIED-CRSを閲覧・利用される方のニーズをくみ取りながら、より的確な情報発信に取り組んでまいります。
- 総合防災情報センター情報統合運用室 特別技術員
社会防災システム研究部門
吉森 和城(よしもり・かずしろ) - 2012 年筑波大学大学院博士前期課程修了。
2017 年防災科学技術研究所入所。