発災後10分で被害を推定し配信
AI分析でさらに高精度化目指す
地震災害が発生した場合に、建物の被害情報等を全国250mメッシュでリアルタイムに高精度推定するシステムを開発。2016年4月の熊本地震では発災から10分程度で推定情報を算出した。今後、津波を対象としたリアルタイム被害推定システムや被害状況の実測データを取り込みながら、広域での推定情報を高精度化していくシステムの開発を目指す。
把握遅れる大地震の全貌
過去の阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害では、被害状況の全体像を把握するまでに多大な時間がかかり、避難や救助支援など初動対応が遅れるといった課題がありました。被害を早期に推定し、その情報を迅速に提供できるようにすることは、災害対応における迅速な意思決定に大きな役割を果たします。
熊本地震で効果実証
SIPプロジェクトでは2014年度から5年間をかけて、地震・津波・豪雨を対象に、被害状況をリアルタイムに推定することで、被害に対して迅速かつ適切に対応することを支援するためのシステム構築を目指しています。
このシステムには、防災科研、気象庁、地方自治体による膨大な地震観測データが活用されています。さらに被害推定するために全国を対象とした約5600万棟の建物分布モデルと、時間帯別人口分布モデルを、250mメッシュ(全国で約600万メッシュ)で構築し、新たに取り入れています。さらに関東・東海地域においては地下構造モデルも加え、より精度よく地震動を推定し、高精度な被害推定ができるシステムを構築しました。
建物を対象としたリアルタイム被害推定システムが試運用にあった2016年4月に熊本地震が起こりました。4月14日に発生した前震では発災の29秒後から被害推定情報を配信し、10分程度で完了。4月16日の本震でも11分程度で完了しました。算出した被害推定情報は、その後調査した実際の被害情報と比較しても多少の過大評価の傾向は見られたものの、ほぼ同様の状況であったことが実証できています。
熊本地震の被害状況を踏まえ、その後リアルタイム推定情報のさらなる高度化に取り組みました。例えば、被害調査結果をデータベース化し、地震動と建物被害率の関係を示す被害関数等の改良を行いました。さらに前震・本震・余震と繰り返す揺れの建物への影響を考慮した被害関数を構築しました。また、熊本地震発災直後に撮影された空撮写真を使って、写真に映る約30万棟の建物被害状況を延べ100人体制で丸3日間かけて目視判読することで、精度高く被害状況を把握しました。このような目視判読結果を人工知能に学習させ、航空写真から被害状況を瞬時に自動判別できる手法の開発を進めています。
今後、南海トラフ巨大地震などで広域に建物被害が発生した場合の被害状況把握技術の開発を加速させ、人命救助や復旧・復興の意思決定に役立てると期待しています。
情報利活用とシステムの信頼性が社会実装の鍵
ここで紹介した全国を概観するリアルタイム地震被害推定情報は、WebAPI やWMS 配信の仕組みを使い、二次利用可能な形で「SIP4D」(府省庁連携防災情報共有システム)に提供しています。また、民間企業や研究機関等で構成された「ハザード・リスク実験コンソーシアム」にも実験提供し、新たなユーザーやニーズの発掘に取り組んでいます。
他方で、リアルタイム地震被害推定情報の社会実装を進めていく上では、情報利活用が想定されるユーザーと連携して実証的実験を実施していくことに加え、システムの継続的運用を含めた信頼性が重要となります。
- 社会防災システム研究部門 主任研究員
(兼)レジリエント防災・減災研究推進センター 主任研究員
中村 洋光(なかむら・ひろみつ) - 2001年東京大学大学院理学系研究科単位取得退学。博士(理学)。同年財団法人鉄道総合技術研究所入所。主に新幹線の早期地震検知警報システムの開発に従事。2006年独立行政法人防災科学技術研究所に入所。主に緊急地震速報の実用化研究やJ-RISQ 等のリアルタイム地震防災に係る研究開発に従事。