低気圧による降雪が原因の那須岳表層雪崩
現地調査結果と新たな情報の検討
はじめに
2017年3月27日8時30分~45分頃に、栃木県那須郡那須町の那須岳で雪崩が発生しました。当該山岳地にて春山登山研修中の高校生と教員が雪崩に巻き込まれ、生徒7名、教員1名の8名が死亡し、40名が重軽傷を負うという大きな被害となりました(平成29年3月27日那須雪崩事故検証委員会報告書より)。
私たちは、現地の積雪が時間経過とともに変質する前に、今後の対策の基となる雪崩の特徴を明らかにすることを目的として現地調査を実施しました。
現地調査の方法
私たちは、雪崩発生の翌日の3 月28 日に、雪崩が流下して事故があったとされる沢を那須温泉ファミリースキー場のゲレンデから登り(写真1 参照)、遭難地点近くの標高1,350m、傾斜角35 度の東向き斜面で積雪断面観測を実施しました(写真2 参照)。
また、4月2日、13日、19日、25日にも現地で積雪調査(積雪深観測、積雪断面観測)、雪崩の痕跡調査を行い、社会防災システム研究部門の内山庄一郎氏、鈴木比奈子氏とともに無人航空機による空撮等を行いました。5 月以降も、たびたび現地を訪れ調査を継続しています。
現地調査結果
図1 に2017年4月2日に無人航空機で撮影した那須岳雪崩発生地全景を示します。積雪調査、雪崩の痕跡調査、無人航空機による空撮等の調査結果より、表層雪崩は樹林帯よりも上部のオープンな斜面に位置する通称天狗岩(標高約1,515m)の直下の斜面A 付近で発生したと推定されています。
4月2日の現地調査では、斜面A の下方の標高1,385m地点に3月27日の救出活動で生じたと考えられる直径数mの穴が2つ確認されました。3月28日に断面観測を実施した地点(前述)は、この救出活動地点と同じ沢のさらに下方に位置します。なお、4月2日と19日の調査で、救出活動地点を含む沢とその隣の北側の沢に積雪層の乱れ、枝折れ、拾得物(ストック、ピッケル、サングラス)等の雪崩の痕跡と考えられる証拠が複数発見されたことから、これら2つの沢に雪崩が流下したと判断されました。また、3月28日には、斜面Bに別の雪崩の流下の痕跡が確認できました。
図2は、2017年3月28日午後に写真2 の地点で観測した積雪断面です。積雪表面から22cm ~ 25cm 下に表層雪崩の原因と考えられる弱い雪の(B)の層(新雪・こしまり雪層中に存在する雲粒の付着の少ない板状等の降雪結晶の弱層)が検出されました。この層は雪結晶の周りに隙間が多く、密度が小さく、とてもやわらかい層であることが確認されました。
天気図と栃木県や気象庁の気象観測データ等を用いて、積雪断面観測結果について考察しました。その結果、日本の南を通過した低気圧と伊豆諸島付近に発生した低気圧に伴う3月26日~ 27日の降雪中に、雲粒の付着の少ない比較的大型の板状結晶等の降雪が積もり、隙間が多いこの弱層が形成されたと推定されました。さらにその後、同じ低気圧からもたらされた降雪が弱層の上に積もって積雪が不安定になり、弱層が壊れたことがきっかけとなって、表層雪崩が発生したと考えられます。
新しい雪崩危険度情報の検討
那須岳雪崩の調査結果や過去の低気圧の降雪が原因の表層雪崩事例を分析し、地形、上空の風、気温、降雪量等を用いた新たな予測情報を検討しています。図3 に示すように、那須岳の表層雪崩発生時の雪崩危険度(赤色が濃いほど危険)について、概ね表現できることを確認しました。
次の2018 年の冬から、山岳関係者に新たな雪崩危険度情報を試験的に見ていただき、那須岳周辺を中心に情報の検証を行う予定です。同時に、このような新たな情報も活かした雪崩に関する教育活動にも取り組みたいと考えています。
- 雪氷防災研究部門 主任研究員(兼)気象災害軽減イノベーションセンター センター長補佐・研究推進室長
中村 一樹