平成30年冬期の大雪による被害
多様な雪氷災害と事故防止に向けた情報発信
2018年1月から2月にかけて断続的な大雪が日本海側を襲い、大規模な交通障害など様々な雪氷災害が発生した。また、雪下ろしにともなう屋根からの転落事故によって毎年多くの犠牲者が出ていることから、防災科研では雪下ろし事故の軽減に向けた情報発信を開始した。
大雪による様々な被害
2018年1月から2月にかけて日本海側では大雪となり、列車や自動車の立ち往生が大きく報道されるなど、雪氷災害が顕著にみられた冬となりました。雪氷防災研究センター(新潟県長岡市)では、まとまった降雪とともに積雪深が一気に増加した期間が4回観測されました。2月初めの大雪時の北陸地方の積算降水量分布を見ると、帯状に降水量が多い地域が拡がり、さらに数十km四方に集中して降水量が多くなっている(集中豪雪)箇所もありました(図1)。これは風の分布や地形の影響などで雪雲が場所を変えながら通過・上陸していく様子を反映して平成30 年冬期の大雪による被害多様な雪氷災害と事故防止に向けた情報発信2018 年1 月から2 月にかけて断続的な大雪が日本海側を襲い、大規模な交通障害など様々な雪氷災害が発生した。また、雪下ろしにともなう屋根からの転落事故によって毎年多くの犠牲者が出ていることから、防災科研では雪下ろし事故の軽減に向けた情報発信を開始した。いるもので、とくにJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)と呼ばれる発達した雪雲を次々上陸させる現象はニュースなどでも報道されました。これにともない約1500台の自動車立ち往生(福井県)や列車の立ち往生(新潟県)など交通障害が多数発生しましたが、当時の雪雲の動きを解析すると、JPCZ以外の雪雲の影響も加わって積算降水量が多くなったことも指摘できます。
このほかにも雪崩が冬期休業中の温泉旅館を襲う(秋田県)など、厳冬期には様々な雪氷災害が発生しました。一方、3月に入ると全国的に暖かい日が続きましたが、積雪が多い地域では雪が急速に融けることによる災害が発生することもあります。北海道では3月初めに気温上昇や降雨によって河川が増水した際に,流路内の河川氷や雪などが大量に含まれた状態で流れ下る現象(雪泥流)により護岸工事をしていた作業員が犠牲になる災害が発生しました。
雪による事故を軽減するための情報発信
雪による被害は広範囲におよび、たとえば道路に雪が積もり車のスリップや歩行者の転倒により発生する事故はもっとも身近に起こる雪氷災害と言えます。防災科研が2017年12月~2018年4月の間に北海道~本州日本海側の地方新聞15紙に掲載された雪が関連する事故記事を集計したところ、交通事故がもっとも多く発生していました(図2)。
次に多いのは屋根からの転落で、これは屋根に積もった雪の重さで家屋が倒壊しないように雪下ろしをする際に誤って転落してしまうことによるものです。全国的に大きく報道されることは少ないですが、高齢化・過疎化が進んだ地域では雪下ろしを高齢者が単独で行う際に事故に遭うケースが多く、毎年多数の犠牲者が出ているのが実状です。屋根に積もった雪の重さは雪の深さだけではわからないため、雪の荷重が少ないうちに雪下ろしをしても事故に遭う機会が増えるだけですが、雪下ろしをしないままでいると家屋倒壊の恐れも増えてしまいます。そこで防災科研では雪下ろしにともなう事故と家屋倒壊の危険性を軽減するために、屋根雪の重さを推定して雪下ろしを行う的確なタイミングの判断に役立てるための「雪おろシグナル」というシステムを新潟大・京都大と共同開発し、2018年冬期から一般に公開しました(図3)。このシステムでは、積雪の重さを知りたい場所を地図上でクリックすると数値が表示されるだけでなく、雪下ろし作業を行った日を入力するとその後に積もった雪の重さも計算することができるのが特徴です。昨冬は新潟県のみの表示でしたが、今冬は山形県と富山県にも拡充して公開するようにしました。
- 雪氷防災研究部門 主幹研究員
伊藤 陽一(いとう・よういち)
- 2004年 北海道大学 博士(地球環境科学)。
2015年 防災科学技術研究所入所。
雪崩の発生検知や到達距離の予測等の研究に従事。